生成AIが文章や動画を作成する能力を得て以来、オンラインの世界は根本から変わりました。
しかし多くの人はAI生成の情報にはいわば縁の下がいるとも気づかず、それが実はすごくおなじみのもの、生身の人間 が査読し、議論して文書にまとめた知識だとも知らないままです。
だからこそ、ウィキペディアはインターネット上のあらゆる知識を支える屋台骨として、その役割はかつてないほど重要になっています。
順に説明しましょう。
人間が作り出した知識は代替が不可能
ハンク・グリーン氏(Hank Green)は科学コミュニケーターとして、最近、AIの未来に 疑念を示し、AIはむしろ自滅して終わるのではないかと危ぶんでいます。人間が編み出した知識をずっと続けて取り込まない限り—生成AIは存在できないし、AIシステムはモデル崩壊に陥ってしまうという指摘です。
ウィキペディアの強みは、ボランティア編集者の皆さんが集まる数十万、数百万人規模のコミュニティであり、その人たちがサイトの情報を絶えず改善している点にあります。ウィキペディアのコンテンツの執筆や管理はボランティア編集者の皆さんが行うのであって、その部分はウィキメディア財団 — ウィキペディアを支援し技術面と法的支援を提供する非営利団体 — は担当外です。
人間が知識創造にもたらす要素を、AIは肩代わりできません。現在の生成AIツールにできることは既存の知識を統合または要約する点であって、関与が不可能なのは、ウィキペディアのボランティア編集者が日常として進める議論や討論、合意形成の部分です。特定のアーカイブから埋もれていた情報を発見したり、知識の向上をめざしてどこかの出来事や典拠不足の場所があるなら写真を撮ってくるなどもできません。
さらに、ウィキメディアのプロジェクト類が300超の言語で利用できるのも、母語話者がその多くを記しているからであり、包摂的で文化を理解したAIモデルの開発ができるのは、多言語コーパスが提供されるからです。このように人間ありきで知識の創造に取り組み、品質が高く信頼できる情報を提供しよう、編集において意見の相違を認め合い定期的に協力していくと、より中立的で包摂的な記事作成につながります。ウィキペディアに参加する人たちが増えれば増えるほど、インターネットの知識も向上していきます。
ウィキペディアの透明性も優れています。 ウィキペディアでは誰もが全く同じ情報を閲覧しているし、その人の行動追跡、コンテンツ提供という形の利益追求のためのアルゴリズムはありません。特定の情報を読んでいるとき、そこに付けてある出典は誰が最初に信頼できる情報源として報告したかも確認できます。特定の情報をその記事に掲載した、そもそもの理由と経緯を詳しく知りたければ、どのボランティアがウィキペディアでどんな操作をしてどんなプロセスがあったか誰でも確認でき、それは当ウェブサイト上のログに記録し公開してあるからです。また、ウィキペディアではこの生きた知識の情報源を常に更新しており、当ウェブサイトの方針とガイドラインに従う限り、どなたでも情報の追加をしてください。この公開性こそ、ウィキペディアが世界で最も信頼されるプラットフォームの一つにずっと数えられてきた理由です。ふりかえって見ると、生成AIシステムには質問に対して「ハルシネーション」現象(※)を示しています(”※”=虚偽または誤解を招く情報を事実かのように示す応答)。
ウィキペディアではAIを利用するのか?
信頼できる情報をより多くの人々に提供する、その使命を達成しようとする私たちは、AIには可能性があると認めています。ただし、あくまでもウィキペディアの流儀にしたがい — あくまでも人間による知識の創造と共有の支援 という方法であって、、人間に取って代わる ものであってはなりません。
一例として、ウィキペディアで費やされるボランティア時間の大部分は、荒らし行為の報告など日常作業が占めると判明しています。こうした作業に注意を取られると、より複雑な作業としてコンテンツ作成や編集内容の査読などがお留守になってしまいます。だからこそ、今年初めに編集者向けAI戦略を発表して、その大部分は編集者の皆さんの時間配分に重みを置き、百科事典のため本来の重要な作業に割り当てるようと述べました。
いずれにしてもAIツールは確実に、人間の貢献者を最大限にサポートする存在として使うよう、ボランティアの皆さんが自らウィキペディア全域でAIツールの責任ある使用に関して、ガイドライン作成とその施行を引き受けておられます。
ウィキペディアにおんぶに抱っこのAI
AIの存在は人間の努力なしに、ウィキペディアのように非営利を目指さない公開の情報源構築ぬきにはありえません。それが根拠だからこそ、ウィキペディアがAI機械学習用として世界最高品質を誇るデータセットの一つとして扱われるし、AI開発者がもしもそれを省こうとしても、精度も多様性も検証可能性も著しく低下した回答の生成にとどまってしまうでしょう。
私たちはこれらに立脚し、AI開発者ほかコンテンツ再利用者に対して、コンテンツにアクセスするならその利用に責任を負ってウィキペディアを維持してもらうように呼びかけています。その実践は帰属と財政支援という、シンプルな行動2つを必ず伴います。
帰属(Attribution)とは、生成AIが出力結果にどんな人間の貢献を利用したか、信用(クレジット)をつけることです。こうすると知識を作成する人間が貢献を継続しますし、それらデータに依存しながら新しいテクノロジー育成を重ねるという、好ましい循環が保てます。インターネット上で共有される情報を世間の人々が信じるかどうかですが、各プラットフォームは情報源を明確に示し、さらに利用者がそれら情報の出所にアクセスして参加する機会を高めたなら、信頼度はますます深まるはずです。ウィキペディアへのアクセスが減るなら、ボランティアばかりか、ウィキペディアの成長も豊かさも衰えてしまうかもしれないし、支援してくださる個人の寄付者すら少なくなるかもしれません。
さて財政支援とは、経由点としてウィキペディアのコンテンツとそれにアクセスする大部分のAI開発者側との間に、必ずウィキメディア・エンタプライズのプラットフォームを挟むという意味です。これはウィキメディア財団開発のオプトイン制の有償製品であり、企業はウィキペディアのコンテンツを大規模かつ持続して利用しながらウィキペディアのサーバーに過重な負担をかけるもなく、並行して非営利組織である私たちの使命に貢献もしていただくわけです。
AI開発者各位には情報源への適切な帰属表示に加え、AIがウィキペディアに寄せる技術的影響について財政支援を高め、ご自身の長期的な将来とともにウィキペディアの将来性を確実にしてていただけないでしょうか。
結論
ウィキペディアはいわば「インターネットにある最良で最後の場所」といえます。同規模のサイトで、検証可能性と中立性と透明性の基準を備えつつインターネット全体の情報を支えるものは他に例がありません。さらに、日常の人々の情報ニーズにとっても、これまでずっと目には見えないけれどさまざまな面で不可欠な存在でした。ウィキペディアは人間の知識であり、AIがますます溢れかえる世の中では、世界にとってその価値は従来より重みがあります。
ウィキペディアは2026年1月15日に25周年を迎えます。この節目に私たちはこれまでを振り返り来たるべき25年をながめて、ウィキペディアはきっと存続するし、未来の世代にも無償で正確な人間による公開の知識をきっとインターネットで提供していくと楽観しております。
